Studies on the natural transmission cycle of West Nile virus and the antibody survey in birds

Autor: Murata, Ryo
Jazyk: angličtina
Rok vydání: 2010
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Druh dokumentu: theses (doctoral)
Popis: ウエストナイルウイルス(WNV)は蚊によって媒介される人獣共通感染症の原因ウイルスである。自然界では野鳥と蚊の間でウイルスの感染環が維持されている。ヒトやウマは髄膜炎や脳炎を発症し、重篤な症例では死に至る。1999年、ニューヨーク(NY)市で北米では初めてWNVが確認され、その後わずか数年でアメリカ合衆国全域に流行が拡大した。WNVは1990年代前半まで病原性の低いウイルスであると考えられてきたが、近年北米で流行している株はヒトやウマだけでなく自然宿主である鳥類に対しても強い病原性を示す。ヒト用の効果的なワクチンや治療法は未だ開発されておらず、WNVの生物学的・生態学的特性を明らかにすることが公衆衛生上重要である。現在WNVの分布域は北米大陸だけでなく、南米大陸およびロシアにおいても拡大しており、ウイルスが渡り鳥や物流を介して日本や東アジア諸国に侵入する危険がある。日本国内でのWNVの流行はまだ報告されていないが、日本にはWNVを媒介可能な蚊と増幅動物となる鳥類が多く生息し、またWNVに近縁で血清学的に交差反応を示す日本脳炎ウイルス(JEV)が常在している。JEVは豚だけでなく野鳥も宿主とすることから、日本や東アジアにWNVが侵入した場合、両ウイルスが野鳥に重感染する可能性がある。鳥類における両ウイルスの感染を鑑別可能な診断法の確立も急務である。これらの背景から以下の研究を行った。第一章では、WNVのエンベロープ(E)蛋白質上への糖鎖付加がウイルスの増殖に与える影響を調べた。多くの病原性の弱いWNV株はE蛋白質上にN型糖鎖付加部位を欠損しており、WNV NY株を含む近年の病原性の強いウイルス株は糖鎖付加部位を持つ。このことから、WNVの強毒化には糖鎖付加が関連している可能性がある。以前の研究で、WNV NY株からE蛋白質上にN型糖鎖付加部位を持つLP株と糖鎖付加部位を持たないSP株を単離した。LP株はSP株に比べてマウス末梢での増殖性が高く、神経侵襲性毒力も強いことが判明している。本研究では、WNVのE蛋白質上への糖鎖付加がウイルスの増殖および伝播に与える影響を明らかにすることを目的とした。自然宿主内でのLP株とSP株の増殖性や病原性を調べるために、鶏雛およびアカイエカを用いて感染実験を行った。LP株を接種した鶏雛ではほぼ全ての個体が死亡したが、SP株接種群では半数以上が生き残った。また、LP株を接種した個体にのみ重度の壊死性心筋炎が観察されたことから、LP株は鶏雛に対してSP株に比べて高い病原性を有することが判明した。鶏雛血清中のウイルス量を経時的に測定したところ、接種後1~7日目まで、LP株はSP株に比べて常に10倍以上高いウイルス血症を示した。一方でアカイエカにLP株とSP株を胸腔内接種または吸血感染させたところ、両株の間に増殖性の差は認められなかった。次に、各ウイルス株の増殖性を調べるために、WNVの宿主となる哺乳類、鳥類および蚊に由来する培養細胞を用いて経時的なウイルスの増殖性を調べた。哺乳類由来細胞(BHK)および鳥類由来細胞(QT6)において、高温培養条件下ではLP株がSP株より10倍以上高い増殖性を示した。しかし蚊由来細胞(C6/36)においては両株の増殖性に差は見られなかった。これらの結果から、WNVのE蛋白質上糖鎖付加はウイルスの増殖性、特に鳥類宿主における高いウイルス血症に関与していることが示唆された。鳥類内でのウイルス血症が高ければ、蚊は高率にWNVに感染するため、この糖鎖付加が自然界における効率的なWNV感染環成立に寄与しているのではないかと考えられた。第二章では、ウエストナイルウイルスの極東ロシアの野鳥における抗体調査を行った。アメリカ大陸だけでなくロシアでもWNVは検出されており、近年その分布域が拡大している。極東ロシアでのWNV流行状況は良く調べられていないが、もしこれらの地域にもWNVが分布しているならば、近接する東アジア諸国へとウイルスが侵入してくる危険性がある。日本を含む東アジアにはWNVに近縁で同じ日本脳炎ウイルス血清型群に属するJEVが常在している。両ウイルスは抗原的に交差反応性を示すため、血清診断による鑑別が難しい。本研究では、信頼性の高い血清診断法である中和試験を用いて両ウイルスの交差反応性を評価した。また、日本に近接する極東ロシアにおいて野鳥の疫学調査を行い、中和試験による血清中の抗WNV抗体の検出を試みた。中和試験の特異性を検討するため、2日齢の鶏雛にJEVもしくはWNVを皮下接種し、一部の個体には3週間後に他方のウイルスを重感染させた。JEVまたはWNVを単独感染させた鶏雛血清についてフォーカス減少法による中和試験を実施したところ、それぞれのウイルスに対する中和抗体を特異的に検出することができた。またJEVとWNVを重感染させた鶏雛では、どちらのウイルスを先に接種しても両ウイルスに対する中和抗体が検出されることが判った。次に、極東ロシアにおけるWNVの浸淫状況を把握するため、野鳥における血清疫学調査を行った。野鳥が多く生息し、渡り鳥の中継地となるハンカ湖やアニュイ川、ホル川で2005年8月と2006年8月に合計152羽の野鳥を捕獲した。回収した野鳥の腎臓からRNAを抽出し、Real-Time PCR法によってWNV遺伝子の検出を試みたが全て陰性であった。一方、中和試験を用いて野鳥血清中の抗体測定を行ったところ、145検体中21検体(14.5%)でWNVに対する中和抗体が検出された。WNVに対する抗体が検出された鳥類種はカモ目やチドリ目、ハト目に属し、WNV感染によって高いウイルス血症を生じることが知られているものであった。WNV抗体陽性検体についてはJEVに対する中和試験も実施したが、ほとんどの検体でJEVに対する中和抗体価よりもWNV中和抗体価が4倍以上高く、この中和試験の結果はJEVに対する交差反応によるものではないことが判った。これらWNV抗体陽性の野鳥には、留鳥であるドバトやキジバトが含まれ、極東ロシアの野鳥間でWNVが流行していることが示唆された。また、その他の野鳥は全て渡り鳥であるため、日本や東アジア諸国へのWNV侵入の危険性が高まっていると思われる。これらの結果から、今後もロシアやロシアに隣接する地域における疫学調査を継続していくことが重要であると考えられた。
Hokkaido University (北海道大学)
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