多素子化に向けたニオブ積層配線を用いたTES型X線マイクロカロリメータの開発
Jazyk: | japonština |
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Rok vydání: | 2016 |
Popis: | 宇宙の大部分はダークエネルギーや暗黒物質(ダークマター) で構成されており、通常物質(バリオン) は宇宙のエネルギー密度5% 程度にすぎない。バリオンの半分近くがダークバリオンと呼ばれる未観測の物質で、この宇宙の熱的・化学的進化や大規模構造の形成に深く関わっていると考えられている。ダークバリオンは宇宙流体シミュレーションによって数百万度の中高温銀河間物質WHIM(Warm-Hot Intergalactic Medium) として分布していることが示唆されており、OVII, OVIIIの輝線吸収線を精密X線分光することでこれを検出することができる。しかし、CCDなどの従来のX線検出器では、銀河系内の高温星間ガスから分離してWHIMを観測するにはエネルギー分解能が不十分で、高いエネルギー分解能と広い視野を備えた次世代の検出器が必要とされている。我々のグループでは、WHIMを含む未検出のバリオン探査を目的とする衛星 DIOS(Diffuse Intergalactic Oxygen Surveyor) を提案しており、そこへ搭載することを目指して超伝導遷移端温度計(TES: Transition Edge Sensor) 型マイクロカロリメータの開発を進めている。マイクロカロリメータはおよそ100 mKという極低温下で動作させ、X線が入射した際の素子の温度上昇による電気抵抗値の変化からX線のエネルギーを求めるという検出器である。DIOSではピクセルひとつにつき5.9 keVのX線に対して5eV(FWHM) 以下のエネルギー分解能が求められているが、TES型マイクロカロリメータは超伝導薄膜の相転移時の急峻な電気抵抗の変化を利用するため、1eV台の優れたエネルギー分解能を実現できると考えられている。我々のチームでは超伝導金属(チタンTi) と常伝導金属(金Au) 二種類の金属薄膜を重ねる事で近接効果を働かせ、両者の膜厚比から転移温度Tc をコントロールし、T_c ~100 mK程度まで下げている。これまでに我々の自作素子では、16ピクセルアレイで5.9 keVの入射X線に対して2.8eV(FWHM)、256 ピクセルアレイで4.4 eV のエネルギー分解能を達成している。DIOS 計画では、アレイ全体で1cm^2 の焦点面をカバーするため、500 μm角のTESピクセルからなる20×20アレイが必要である。またDIOSで採用する可能性がある周波数分割読み出しでは数百kHzからMHzの高周波を信号に重畳するため、配線インダクタンスによるクロストークも問題となる。この問題を解決するため、積層配線と呼ばれるピクセルまでのホットとリターン配線を絶縁膜SiO_2を挟んで上下に重ねる構造を採用した。従来の構造に比べて配線スペースが削減されるため多素子化が可能になるうえ、配線自身で磁場がキャンセルすることでクロストークを十分小さく抑えることができる。しかし、現在20×20積層配線素子を首都大で製作するには上部配線の上にTESを形成する必要があり、段切れを防ぐためTESを配線よりも厚くしなければならない。また、これまでの条件出しでは膜厚比がTi/Au=2であれば転移温度が100 mK付近になることがわかっていたが、TES下層のチタンを厚くすると近接効果が効きにくくなり転移温度が200 mKと高い温度で転移してしまう。これらの問題を解決するため、産総研の協力によるイオンミリング法によって配線側面に傾斜(テーパー) を付けた、積層配線TES 型マイクロカロリメータの製作を行った。配線側面に傾斜を付けることにより、配線上にTESを成膜しても段切れを起こさず、TESはより薄く配線はより厚くすることが可能なデザインとなっている。昨年度から傾斜付き積層配線素子の製作及び評価を始めているが、常伝導抵抗が1~2Ω、残留抵抗が100~800mΩとどれも要求値(それぞれ数mΩ、数百mΩ) より高い値となってしまった。その後の試作を経て常伝導抵抗値は300~400mΩ程度まで下げることに成功したが、正常な超伝導転移を確認する事は出来ていない。本研究では傾斜付き積層配線素子の優れたエネルギー分解能の達成と正常な超伝導転移が生じない原因の究明と改善を目指し、試作及び評価を進めた。昨年度の原子間力顕微鏡(AFM: Atomic Force Microscope) による積層配線基板の表面観察によってTESの下地となる絶縁膜の表面粗さがTESの転移を妨げる要因ではないかと考え、表面粗さの改善を行った。TESの下地部分の積層構造を再現した基板を製作しTESべた膜での膜厚比- 転移温度の条件出しを行うことで表面粗さS_q(二乗平均平方根面粗さ) ~1 nmに転移するかどうかの境界があると考えられることを突き止めた。また、エッチング後の表面粗さを改善するため配線素材をアルミからニオブへ変更し製作プロセスの確立を行ったところ、S_q は~6 nmから~3 nmに約2倍改善した。さらなる表面粗さの改善のため、上部配線のパターニングに用いているイオンミリングエッチングの条件出しと共に、CMP研磨を用いる新プロセスを検討している。 首都大学東京, 2016-03-25, 修士(理学) |
Databáze: | OpenAIRE |
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