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語彙項目は、どのようにして文法項目へと変化していくのだろうか。この問題は、文法化研究において、名詞・動詞といった語彙項目に属する語(内容語)が、通時的なプロセスを経て、前置詞・接続詞といった文法機能を表す語(機能語)へと変化していく現象の研究などを通して、様々な研究者が関心を寄せている。その中でも、during, failing, notwithstanding, except, pastなどの通時的に動詞に由来する前置詞、いわゆる「動詞派生前置詞(deverbalprepositions)」は、通言語的に見られる興味深い文法化事例のひとつとして着目されている。本稿では、これらの現象を、共時的観点から統語的・意味論的に規定していくことを目的とする。本研究では、動詞から前置詞へ段階的に文法化が進むものと想定する。そのため、「動詞であるのか、前置詞であるのか」というような二分法で議論することを避け、動詞派生前置詞の前置詞性(prepositionality)を見出す。具体的には、先行研究および辞書より収集した37種類の動詞派生前置詞を分析対象として作例を行い、Emonds(1976)による以下のテストを用いて調査を行った:(i)分裂文(thecleftconstruction)、(ii)強意の副詞rightとの共起可能性。英語母語話者の内省により容認度を調査し、その結果に基づき前置詞性を算出した。分析を通して、past, during, following, starting, regarding, accordingto, preceding, succeeding, including, pertainingtoを除く動詞派生前置詞は前置詞性が低いものと位置づけられた。本稿が提示した前置詞性の分布は、文法化の進行度に段階性が見られることを示唆する。また、テスト(i)に加え、空間的・時間的意味をもつ事例の前置詞性が高いと判定される(ii)においてもpast, during, following, startingの前置詞性が高いと判定されることから、これらの意味が、前置詞としての典型性に関わりをもつ可能性があると指摘した。本研究のアプローチは、共時的分析を通して、文法化という通時的・共時的側面の接点へと迫る汎時的(パンクロニック)な視座を提供するものである。 |