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航空機や自動車の製造技術が著しく成長を遂げる中,搭乗者がより快適に安心して移動することを目的として,構造設計や製造方法が大きく変化する時代である.燃費向上を狙った機体や車両の軽量化ニーズが急速に高まるなかで,軽量かつ高剛性の特徴を併せ持ち,材料の品質や安定供給性も目処が立ちつつある炭素繊維強化複合材料(CFRP)が注目されている.株式会社UCHIDAでは手探りでCFRP成形に着手したが, マニュアルが無い中でオートクレーブ成形に挑戦し,以来航空機・宇宙・自動車・次世代産業の試作品を中心に試行錯誤を繰り返してきた.CFRP成形方法のなかでもオートクレーブ成形は寸法安定性や物性の信頼性が高い.ただし,金属材料(等方性)では考慮する必要のない異方性と積層構成を構造設計時に考慮する必要がある.さらに様々な複合材料や副資材をマッチさせる難易度の高い要求にも取り組む必要があった.そのため知識や経験を積み重ね,巧みなハンドワークを習得した熟練者から「匠の技」を継承し,昨今の多様化した需要に柔軟に対応する急務に駆られていながら, 定量化し難い技術が余りに多いため,後進の育成に苦労している.作業者が十分なスキルを獲得するカリキュラムは無く,スキルのレベルを明確にする検定を行うシステムも存在しない.また,積層作業内容や成形道具の使用方法を明確にした文献はない.その作業内容が成形品の性能に与える影響について明らかにした報告もされていない. そこで本論文では,オートクレーブ成形の積層工程における熟練技術を定量化することを目的とした.熟練者と非熟練の被験者が,炭素繊維に樹脂が含浸されたプリプレグシートを擬似等方に積層する連続作業を通じて,積層方法や道具の使用方法にどのような差異が存在するのかを観察した.一層毎の積み重ね方に不具合が生じると力学的特性に大きく影響を及ぼすことから,特に形状が屈折する角Rの積層作業に注目し,完成した製品の該当個所の断面観察を行った. 第2章では,熟練者と非熟練者の積層作業動作および工程分析を,ビデオ撮影した映像を検証する形で行い,動作の違いが成形品に与える影響について提案した.プリプレグを成形型に三層積層する時間配分や,被験者の道具の使い方,さらに道具の選定理由についても検証し,経験値の定量化を行い,判断の違いから異なる動作になる事が明確になった. 第3章では,被験者の眼球運動を観察し, 作業時の視点が成形品の力学的特性に与える影響について考察した.作業段取り/積層工程の2工程に分け,被験者の眼球動作を通じて,作業順序の違いや反復作業時の無駄な動きの有無を検証した.被験者の経験年数と作業効率を比較すると,熟練者は非熟練者に比べて次工程を先読みしながら,一点に集中して作業を行っていることが判明した. 第4章では,あらかじめ示された設計指針をベースに,被験者がどのような成形プロセスを組み立てていくかを, [0° -90°/±45°/0° -90°]の積層構成でハンドレイアップする作業を観察した.経年変化に耐え得る力学的特性の安定した成形品は,ラップシロや繊維の縮れを事前に予見しながらシワや空隙を最小限に抑え,均質性の高い賦形性によって応力集中を防ぐことが重要である.圧縮試験では,角Rの破壊に至るまでの治具を開発し,応力プロファイルを試験片の変形から破壊に至る映像と対応させながら解析する「UCHIDA式角R試験方法」を確立した.特に応力分布の連続性や不均一性の評価に有効であることから今後経時的な信頼性評価に活用が期待できる.成形品のR0.5コーナー近傍の角R断面観察により積層作業者の技能を評価する定量評価方法を確立した. 第5章では,熟練者と非熟練者の仕上がり具合が異なる角Rの積層作業についてビデオ映像を用いてインタビューを行い,テキストマイニング処理によって判断基準を解明する.熟練者は,積層作業の違いのある角Rに対して多くの言葉の連動があり,非熟練者はコーナー積層およびカット工程に多く言葉の連動の差が見えた. 第6章では, 一連の結果から熟練者と非熟練者の技能の違いを明確化してこれまで作成できていなかった技術教育マニュアルの具現化に向け必要な構成要素を抽出した.圧縮試験後の破壊断面の特徴として,熟練者は亀裂のパターンが類似しているのに対し,非熟練者において 20mm幅の試験片の両断面に亀裂パターンとバックサイド外形ラインに違いが表れており信頼性に欠ける懸念があった. 第7章では,本研究で得られた知見をまとめ,今後の展望について述べた. |