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19 世紀前半にマンチェスター周辺の工業都市選出の下院議員となったジョン・フィールデンとロバート・トレンズは,当初ともに工場法的な規制を支援していたが,両者の間では労働者の賃金や労働時間の改善の方法をめぐって論争が展開された。本稿の課題は,この論争の経緯を分析する手がかりとして,工場経営者でありながら労働時間の短縮に尽力したジョン・フィールデンの,労働時間の短縮がイギリス経済に及ぼす影響についての議論の展開過程を明らかにすることである。まず簡単に,彼の主張にも影響を与えたと思われる工場経営の実態や,労働時間短縮のための運動との関わりについて概観した後,初期の彼の政策的主張を分析し,そこではイギリス政府の債務問題や通貨政策を原因とするデフレーションなどが重要視されていたこと,その実態の分析手段として綿業経営に関わる統計の分析がなされるようになったことを明らかにする。ついで労働時間短縮のための運動への関わりとともに分析の視点が工業製品の過剰生産による価格の下落の問題へと変化し,綿業経営に関わる統計の再検討を通じて,生産の制限による労働時間の短縮と利潤の回復の可能性を主張するに至った過程を,彼の外国貿易像と関わらせながら明らかにする。 |