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本稿は,ケイパビリティ論と進化ケイパビリティ論のフレームワークに,戦略と取引費用のアイディアを取り入れる形で,流通チャネルの選択と構造的進化という2つの現象をより正確に説明,理解することを試みる。具体的な流通現象としては,製造業者が卸売業者との間で選択する3種類の流通チャネルに注目する。それらの現象を解明する際に本稿は,生産の世界におけるコーディネーション問題と取引の世界におけるインセンティブ問題の双方に着目すること,双方とも重要であるが,解決する際には,コーディネーション問題が先でインセンティブ問題が後という順番があること,そして生産の世界は統合型チャネルか否かという企業境界と,取引の世界は閉鎖型チャネルか開放型チャネルかという市場境界と深く関係していることを特に重視する。換言すればこのことは,チャネル選択をめぐる従来の取引費用分析は不十分であり,何よりもケイパビリティ論と取引費用論を補完的および連続的に利用することによって,その問題とそれに基づくチャネルの構造的進化をめぐるより興味深い分析が可能になることを示唆するものである。詳細な吟味の結果,まず,統合度は生産技術的知識度(+),生産技術的知識度は製品のインテグラル度(+),続いて閉鎖度は取引特殊的資産度(+),取引特殊的資産度はパワーの製造業者配分度(+)によって規定されること,次に,ICT の発展に適応して,統合型チャネルは非統合型チャネル,閉鎖型チャネルは開放型チャネルに徐々に置き換えられつつあることが理論的に明らかにされる。日本の製造業者の事業部を対象とした実証分析の結果は,そうした本稿の仮説を経験的に支持するものであった。 |