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主に西日本で上演される民俗芸能の「俄」は、地域共同体のメンバーが他のメンバーを相手に演じる奉納芸・祝福芸である。昭和以降、一部の俄は演者や劇団の職業化が進み、通常の商業演劇と大差のない「商業俄」となった。本来、民俗芸能の俄は地域共同体のメンバーが演じる素人性や、当意即妙な言葉の掛け合いによる即興性を本質とするが、商業俄では職業俳優がこれを演じ、上演台本を用いて笑いをとるようになった。そして民俗芸能の俄が商業演劇の俄へと展開する際に新たに獲得したもののひとつがドラマ性である。即興性とはおよそ相容れない性質のドラマ性は、演劇が不特定多数の人々を観客としてまとめあげる上で重要な要素である。商業俄である佐賀俄・筑紫美主子劇団の場合、俄劇団の組織化、職業化、興行化、そしてドラマ性の獲得は、商業演劇ならではの内的発展の他、第二次世界大戦中の慰問公演や検閲といった外部の影響が大きく作用した。つまり筑紫美主子劇団は、一方では民俗芸能の俄から遠ざかりつつ、他方では商業俄としての性格を確立したのである。本論文では、佐賀俄・筑紫美主子劇団を取り上げ、演劇における重要な要素であるドラマ性に注目しながら、演劇―特に商業演劇としての俄の特徴について考察する。 |