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地理の技能として中村和郎は二つのアプローチがあることを指摘した。それは,自然と人間活動の諸要素が複雑に関係し合うシステムを統合的にとらえるアプローチと,場所や地域の特性から他の場所や地域との関係をとらえるアプローチである。地理教育では,地域の生態系についての空間秩序を示す手法を学習に取り入れることが課題として挙げられる。そこで,高校地理の授業において,アムール川流域と親潮海域を生態学的に関係づけた白岩孝行らの研究をもとに,要素間の関係を示す生態的関係と場所の関係を示す空間的関係を認識させ,その図式を地図上に描かせた。さらに,流域の開発が生じた場合にそれらのシステムがどのように変化するのかを予測させた。学習者には,流域と海域の要素間の関係を生態的に示すだけでなく,その要素が分布する実際の空間的な位置と関係を示させた。本稿ではその図式を「生態・空間関係図」とした。学習者による「生態・空間関係図」とシステムの変化を予測した説明を分析した結果,「生態・空間関係図」の評価が高いと,「予測の説明」の評価も高くなる傾向にあった。「生態・空間関係図」を描けていない学習者は,「予測の説明」に困難を生じていると考えられる。漁業資源の増減に影響するという可能性について,多くの要素からなる多構造で説明できた学習者は,流域と海域の「生態・空間関係図」を綿密に描いていた。「生態・空間関係図」は,地理空間情報を認識するツールとしての効果が期待され,地理歴史科・地理探究に設けられた「生態系」の学習などでの活用が考えられる。 |