子供の模倣運動に有効な手本モデルに関する実験的検討

Jazyk: japonština
Rok vydání: 2017
Popis: 本研究では,子供が動作を模倣する際に呈示する有効な手本モデルについて検討した.先行研究によれば,私たちの脳は,自分のキネマティック特性と類似した特性の動きを観察したときに,あたかもその動きをシュミレーションしているかのような活動が起こる(例えば,Iacobini et al.,2005).これを踏まえると,子供にとって子供モデルを呈示すること,つまり,子供同士のキネマティック特性が子供の模倣に影響を与えることが推測できる.そこで本研究では,子供にとって自身と近いキネマティック特性を持つ子供モデルを呈示するほうが,成人モデルを呈示するよりも有効であるという仮説を立て,その妥当性を2種類の実験(合わせて4つの実験)に基づき検討した.実験1~3が主観評価に基づく実験であり,実験4が三次元動作解析に基づく実験であった.まず実験1では,子供が手本モデルの映像に合わせ模倣する様子を手本モデルと子供の両者が映るよう後方からビデオカメラにて記録し,運動指導熟練者がその映像から主観評価を行った.主観評価は,手本モデルと子供の同期性(手本モデルと子供のリズムかずれていないか),四肢の協調性(子供の動作がぎこちなくないか),課題動作の正確性(課題動作を間違えていないか)の3つの観点から評価してもらった.その結果,一部の課題動作において,子供モデル呈示の有効性を確認した.このことから,子供にとって子供モデル呈示が有効である可能性があり,その効果は課題動作に依存して決まることが示唆された.実験1の結果について,もし運動指導熟練者が手本モデルを基準にして「対象児は手本モデルの動きと比べて上手な動きか」という観点で評価していた場合,手本モデルが子供モデルであることを運動指導熟練者が認識できたことで主観評価が向上した可能性を否定できない.また,協調性評価と正確性評価では子供のみに注目するのに対し,同期性評価では手本モデルと子供の両者に注目する必要があった.この視覚的に向ける注意が異なる評価項目が混在することが,主観評価に影響を与えた可能性も否定できない.そこで実験2,実験3では,対象児の模倣動作のみに注目して評価をする協調性,正確性の評価項目に絞り,手本モデルが映らない映像を用いて実験1と同一のパラダイムで再度評価実験を行った.その結果,評価項目が同一であれば,一部の課題動作において子供モデル呈示が有効である可能性が示された.実験1~3では共通して,特に四肢の協調性を求められる課題動作において子供モデル呈示の有効性を示した評価を比較的多く確認した.このことから,有効な手本モデルは課題動作によって混在しているものの,複雑性の高い四肢の協調動作において子供モデル呈示が有効であることが推察される.そこで実験4では特に,こうした結果が得られた理由を見出すことに焦点を当て,三次元動作解析に基づくキネマティック分析から検討した.なお,技術的な問題から主観評価で有効と評価された一連の動作全体を対象に解析できておらず,実験1~3との結果の違いを生み出す可能性があった.実験の結果,主観評価とは異なり子供モデル呈示の有効性は確認できなかった.しかし,この結果は子供モデル呈示の有効性を必ずしも否定するものではなく,一連の動作全体を捉える解析方法やより厳密な実験統制について検討する必要性を明らかにしたと考える.本実験で用いたキネマティック分析の手法では,主観評価で子供モデル呈示の有効性が示された理由を確認できなかったものの,特に四肢の協調動作において子供モデル呈示が有効であるという可能性を示した.これまで子供の模倣に関する研究では四肢の協調動作を求めるような動的かつ複雑性の高い課題に着目したものは殆ど報告がなされなかった.こうした点を踏まえると,本研究の示した結果は,運動指導現場に近い環境を再現し,四肢の協調性がより求められる課題に対して,子供モデルの有効性を提唱できる可能性を示す知見といえる.
首都大学東京, 2017-03-25, 修士(健康科学)
Databáze: OpenAIRE