Study on Color Characteristics and Material Properties of Expressive Japanese Soft Pastel

Jazyk: japonština
Rok vydání: 2016
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Popis: 近代西洋画の成熟期といわれる大正から昭和の初めにかけて、パステル画の普及を目指した画家 矢崎千代二は、日本で理想のソフトパステルを製造しようと考えた。その要望を託された間磯之助は、大正8年(1919)、京都で王冠化学工業所を創業し、試行錯誤を繰り返しながら独自の特長をもった日本製ソフトパステル(製品名:ゴンドラパステル)を創り上げた。日本でパステル画が自由に描けるようになったのは、約100年前に画家 矢崎と工人 間が共に日本製ソフトパステル製造に専心した成果であるといえる。しかしながら、日本製ソフトパステル誕生の過程は重要視されないまま、製造技術のみが伝承されてきているのが現状である。そこで本論文では、製造技術に潜む画家 矢崎と工人 間の試行錯誤の過程を暗黙知として捉え、それを明らかにし、将来の日本製ソフトパステル製造の後継者たちが体験として共有できる形とすることを研究の目的とした。 本論文では、暗黙知の解明に2つの観点からのアプローチを試みた。ひとつは歴史的観点から、もうひとつは製品への科学的観点から、絵具と筆両方の役割を兼ね備えた画材であるソフトパステルの物性面・機能面を分析した。これら2つのアプローチによる研究成果を、教示的なテキストではなく、創業者の思いも含めて共有し、家業の物語を自らの体験として語ることによって、日本製ソフトパステルの製造技能が継承されると考えた。 本論文は、第1章の緒論から第8章の結論までの8章構成である。以下に、第2章以降の目的と内容について簡潔に記述する。 第2章では歴史的アプローチとして、矢崎が日本製ソフトパステルに求めた条件と製造を託された間の試行錯誤の過程および完成させた製品の特徴を明らかにすることを目的とした。残存する資料を分析した結果、色ごとに異なる調色を行うことで日本の風土を描くのに適した豊かな色相を、体質顔料に陶石を用いることで崩れないソフトパステルを実現し、さらに使い易くするために通常の三分の一のショートサイズで紙を巻かない斬新なスタイルという独自の開発を行ったことがわかった。 科学的アプローチとして、第3章、第4章では物性面から、第5章、第6章では機能面から分析を行った。第3章では、体質顔料の種類と含有率がソフトパステルの圧縮強度に及ぼす影響および圧縮強度と製品の微細孔構造の関係を明らかにすることを目的とした。体質顔料に陶石と炭酸カルシウムを用いて作製した試験片の圧縮試験を行うとともに、粒度分布、細孔径分布を調べ、走査電子顕微鏡による内部構造の観察を行った。その結果、体質顔料に陶石を用いると、炭酸カルシウムを用いるより明らかに圧縮強度が高くなった。特に陶石含有率72%の時に圧縮強度は最も高くなった。粒度の異なる顔料を混練すると密度が増し、圧縮強度が高くなることがわかった。 第4章では、体質顔料の種類と含有率がソフトパステルの色に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。体質顔料に陶石と炭酸カルシウムを用い、赤・黄・青の有色顔料を混練した試験片の測色を行った。体質顔料に陶石を用いると明度・彩度が低くなるため、抑制的な落ち着いた色をつくりやすく、炭酸カルシウムを用いると明度・彩度が高くなるため、明るく軽快な色をつくりやすいという傾向が認められた。 第5章では、ゴンドラパステルの色揃えの特徴と伝統色との関係を明らかにすることを目的とした。ゴンドラパステル、他社の製品、日本・フランスの伝統色を測色し、比較検討した。その結果、ゴンドラパステルは暖色系統の色相および低明度・低彩度の分布が多く日本の伝統色の特徴と類似していること、さらに時代の変化とパステルの明度・彩度の変化が対応していることも明らかとなった。 第6章では、ソフトパステルの筆としての機能を確かめるため、試験片の圧縮強度と画用紙への着色状態の関係を明らかにすることを目的とした。単色の描き重ね実験の結果から、圧縮強度が低いほど少ない荷重、少ない描き重ね回数で着色するが、微妙な色の変化を求めるには、適度な圧縮強度が必要であることが確認できた。圧縮強度の異なる試験片の重色実験の結果から、後から描き重ねる試験片の圧縮強度が低い場合は、先に描いた圧縮強度の高い試験片の色を隠蔽しやすく、逆の場合は隠蔽しないことがわかった。圧縮強度に差のない試験片どうしは、描く順番による着色状態の差が少なく、先に描いた色と後に描いた色が混じり合い、新たな色をつくりだすことが観察できた。 第7章では、ソフトパステル製造を伝統的家内工業と位置づけ、家業継承のモデル化を目的とした。状況的学習論を援用するとともに、「守・破・離」という伝統文化の継承の考え方を取り入れ、世襲制の意義と継承のあり方についての考え方を構築した。その結果、後継者は職住一体となった環境で子どものうちから家業の正統的周辺参加者となること、技能教育ではなく後継者自らの学習と位置づけることが重要であることがわかった。そうして、家業の歴史を自分のストーリーとして物語り、継承への内的動機付けとすることで、時代の変化に応じたソフトパステルの製造と家業の存在価値の発揮へとつながることが示唆された。 第8章では、本研究で得られた知見をまとめ、家業継承モデルの他産業・他分野への応用と、ソフトパステルの新たな製品開発への展望を述べた。
Databáze: OpenAIRE