三相PWMインバ-タ・コンバ-タのソフトウェア制御

Jazyk: japonština
Rok vydání: 1990
Popis: 界磁と電機子回路をそれぞれ独立に制御できる直流電動機は、可変速電動機として、各種産業用駆動源に広く用いられてきた。 他方、直流電動機に比較して安価で小型軽量さらにメンテナンスフリーの特徴を持つ誘導電動機やブラシレスモータなどの交流電動機をインバータを用いて可変速制御する技術は目覚ましい発展を遂げ、従来使用されてきた直流電動機は、インバータ駆動の交流電動機に置き換えられつつある。交流電動機に所望の運転特性を与えるには、インバータの出力電圧波形をどのように制御するかが大きな問題となり、これを実現するのがいわゆる「PWM制御技術」である。 広く用いられているPWM制御法としては、三角波比較PWM制御法と瞬時値比較PWM制御法がある。 これらの方法のPWMパタンは、電圧または電流の指令値と、キャリアの三角波または実電流とを比較し、その大小関係から間接的に決定される。 三角波比較PWM制御法は応答速度や電圧の利用率などにおいて十分な特性が得られないという欠点を持ち、また瞬時値比較PWM制御法では、高調波電圧が増加したり、スイッチング周波数を一定範囲内に制御できないなどの問題点がある。 本研究では、交流電動機の高性能制御を実現するために、インバータは理想電源ではなく、インバータの出力電圧は各スイッチングパタンに対して大きさと位相に制約を持ったベクトルであることを前提にして、電圧.電流を制御する最適なスイッチングパタンを直接リアルタイム処理により算出するPWM制御法について検討した。このように電圧ベクトルを用いて電圧.電流を制御するには、機能性に富んだソフトウェア制御が不可欠である。トランジスタインバータのPWMパタンを直接ソフトウェア上で計算する場合、スイッチング周波数との関係から数百μsec の高速なサンプル周期が必要とされるので、高速処理に適したアルゴリズムを導出しなければならない。 またソフトウェア制御は、サンプル周期を遅れ時間とするむだ時間系となるので、高性能な制御特性が得れないなどの問題点も指摘されている。 この問題点に対して、本研究では、各制御システムに要求される性能に応じて、それぞれのシステムに適したソフトウェアPWM制御アルゴリズムを開発した。 汎用インバータのように開ループで誘導電動機を可変速制御する場合には、磁束が飽和しないようにV(電圧)/f(周波数)を一定に制御するPWMパルスパタンが必要とされ、三角波比較PWM制御法が広く用いられている。 しかし、三角波比較PWM制御法をソフトウェア制御として実現しようとすると、スイッチング時点を定めるには非線形方程式を解かねばならず、一般に用いられている乗除算命令を有していない8ビットの汎用プロセッサでは、要求されるサンプル周期内に制御処理を終了することができない。 このため、近似的にスイッチング時点を求める種々の方法が提案されているが、この場合には近似に基づく誤差が問題になる。 本研究では、V/fを一定に制御することは磁束ベクトルに半径一定の円軌道をたどらせることに相当することに着目し、簡単な座標変換を導入することで電圧ベクトルの選択法すなわちPWM制御アルゴリズムを、関数テーブルと加減算のみで構成できることを示した。 この結果、8ビットワンチップマイコンによるリアルタイムPWM制御が実現できた。 さらに、制御処理過程に含まれる量子化誤差を考慮したPWM制御アルゴリズムも明らかにした。 高速な速度制御を実現する電動機の閉ループ系では、電動機のトルク制御、すなわち電流制御が不可欠で、その制御性能が電動機の特性を大きく左右する。 ブラシレスモータの電流制御系にPI制御(比例積分制御)を用いただけではd.q軸(直,横軸)の干渉項により、電流の定常偏差や応答遅れが発生する。 また電流制御系に用いられるPWM制御アルゴリズムでは、制御周期を電気的時定数に比較して十分短くし、さらに制御処理時間に伴うむだ時間の影響を考慮して、如何に実電流を指令電流に一致させるかが大きな問題となる。 本研究では、ブラシレスモータに内在する干渉項を制御ループで補償することで非干渉化を実現し、この結果、簡単なPI制御を用いるだけで高性能な電流制御がDSPのソフトウェア上で構成できることを示している。 さらに、より高速な電流制御をめざし、ブラシレスモータのサンプル値電圧方程式に基づいたソフトウェア電流制御法に発展させている。 この方法では、制御処理時間に伴うむだ時間を考慮して指令電流に対するインバータの最適な出力電圧ベクトルをソフトウェア上で算出し、これに対するPWMパタンを直接出力でる方法を開発した。 サンプル値電圧方程式に基づいた電流制御法は、高速電流制御が実現できるが、制御対象のパラメータ依存性が高いことが指摘され、パラメ一夕変動に対してロバストな制御系であることが望まれる。 そこで、本論文では三相PWMコンバータの電流制御系に対して、ソフトウェア上のモデルと制御対象の間にパラメータ誤差がある場合にも、定常偏差が生じないように制御する方法を提案し、その制御特性を明らかにしている。 さらに、コンバータの電流制御系にモデル規範適応システムに基づいたパラメータ同定器を導入することで、常にモデルのパラメータを制御対象のパラメータに一致させ、高性能な電流制御を行う方法も示した。 このように、本論文は三相PWMインバータ・コンバータを用いて電圧.電流を制御するためのソフトウェアPWM制御アルゴリズムの開発を行ったもので次の8章より構成されており、その概要を各章ごとに述べる。 第1章では、三相PWMインバータ・コンバータの電圧.電流制御に関する研究の技術的背景および従来法の問題点について述べ、本研究の目的と意義および内容についてまとめた。 第2章では、開ループで誘導電動機を可変速制御するためのソフトウェアPWM制御法について検討した。 まず、誘導電動機の磁束と三相PWMインバータの出力電圧ベクトルとの間に密接な関係が得られることに着目して、加減算機能と関数テーブルだけで構成できるソフトウェア制御に適したリアルタイム処理PWM制御アルゴリズムを開発した。 この結果、制御回路は8ビットワンチップマイコン、V-Fコンバータ、ベースアンプのわずか3点で構成することができ、高速なPWM制御が実現できる。 また、本PWM制御法は三角波比較PWM制御法に比較して電圧の利用率が高いことも示した。 第3章では、第2章のPWMアルゴリズムを発展させ、誘導電動機の磁束を3軸で取り扱うことにより、すべての制御量の量子化誤差を考慮したPWM制御アルゴリズムを導出した。この結果、本章のアルゴリズムで誘導電動機を駆動したとき、第2章に示した手法に比較してトルク変動の分散が2/3の大きさに改善されることを示した。 また、任意のV/fパタンで誘導電動機を駆動するための可変磁束制御法および誘導電動機の不安定現象を安定化するデッドタイム補償法を提案した。 大容量機への適用を考え、1相当り3値の電圧レベルを出力できるマルチレベルインバータへ本法を応用する方法についても明らかにした。 第4章では、ブラシレスモータの高速可変速制御を実現するための非干渉電流制御法について述べた。 ブラシレスモータでは、 d軸電流を零にする制御を施すことによって電動機モデルに内在する干渉項が解消され、伝達関数が直流電動機と同じ形で表現されることを示した。 このように非干渉化することで電流制御モデルを単なるR-L直列回路として扱うことができ、PI制御を用いるだけで十分高速な電流制御が実現できることを述べた。 また、ソフトウェア制御特有の問題である演算処理時間による制御遅れを、実電流と速度起電力の予測演算をすることで除去できることを示した。 本電流制御アルゴリズムを、高速積和演算に適したDSP(ディジタルシグナルプロセッサ)のソフトウェア上で構成し、本法の特性を明らかにした。 第5章では、ブラシレスモー夕の電流制御系に対して、従来の偏差電流を用いた制御法とは異なり、ソフトウェアの演算処理機能を積極的に導入した高速電流制御法について述べた。 ブラシレスモータの瞬時電圧方程式より電流を制御するためのインバータ出力電圧を求め、第2章および第3章のPWM制御法を応用して最適なインバータ出力電圧ベクトルを直接選択する方法を提案した。 本アルゴリズムは電圧電流の瞬時値に基づいて展開されているので、定常時はもとより過渡時においても高速な電流制御ができる。 また、本アルゴリズムをDSPのソフトウェア上で構成することで、速度、電流、PWM制御を含めた全ソフトウェア制御が実現される。第6章では、三相PWMコンバータの入力電流を正弦波にし、入力総合力率を1に制御する電流制御法について述べた。 本章では、制御対象のパラメータ依存性を低減することを目的とし、制御対象のモデルとPI制御を用いた新しい電流制御法を提案した。この結果、モデルのパラメータと実パラメータとが相違している場合の過渡時にわずかな制御偏差を生じるだけで、定常時の制御偏差を零にすることができた。 また、PWMパタンの発生に対して、d-q座標系で計算されたコンバータ入力電圧と、サンプル周期間の実電圧の平均値が等しくなるように複数の空間ベクトルを時分割出力するPWM制御法を提案した。 このPWM制御法は、出力すべき電圧が大きすぎて実現できない場合の対応方法も考慮されており、また三角波比較PWM制御法に比較してコンバータのスイッチング周波数を2/3にできるという利点もある。 第7章では、制御対象のパラメータ変動に対する補償および制御装置の無調整化を実現するために、モデル規範適応システム(MRAS)によるパラメータ同定器を導入した三相PWMコンバータの電流制御法について述べた。 パラメータ同定アルゴリズムを複素領域に拡張することで、パラメータ行列の要素数を半分にできることを示した。 また、パラメータ同定を電流制御のサンプルに対して1/2サンプルずらして実行させることにより、指令電流が一定であってもPWM制御の性質から同定に用いる入力に変動を与えることができ、良好な同定がなされることを明らかにした。 第8章では、本研究で得られた成果を各章ごとにまとめ、本研究の残された問題点と、将来の発展の方向について簡潔に述べた。
名古屋大学博士学位論文 学位の種類:工学博士 (論文) 学位授与年月日:平成2年7月6日
Databáze: OpenAIRE