教育における「能力」の問題

Jazyk: japonština
Rok vydání: 2019
Zdroj: 創大教育研究. 29:29-42
ISSN: 2185-1395
Popis: 「〇〇力」あるいは「〇〇能力」という言葉が、教育界や産業界をはじめ、社会的な広がりを見せている。学習指導要領の「生きる力」や「資質・能力」、近年注目を集める「非認知能力」、経済産業省が発表した「人生100年時代の社会人基礎力」などがそれである。大学や私立学校の広報ポスターなどに「〇〇力」という言葉が印字されていることも多く見受けられる。以上のように、昨今では、教育について語られるとき、「能力」の育成ばかりに注目が集まっているかのように見える事態がある。本稿の目的は、教育における「能力」の問題を取り上げ、それを考察することを通して、少しばかりの警鐘を鳴らすことである。 本稿では、3 つの視座から考察する。1 つ目は、“いかなる抽象的な能力も、厳密には測定できない”(中村高康)ということである。2 つ目は、“「よさ」の実在主義的偏向”(村井実)である。3 つ目は“価値を関係概念として捉える”(牧口常三郎)ことである。以上の3 つの視座から見えてくるものは、能力があたかも実在するかのように考えてしまう(だから正確に測定・評価できる)という誤った見解であり、子どもの能力育成を、子ども個人の問題(実体論)としてではなく、子どもと環境との相互作用的な視点(関係論)で考える見方である。 牧口や村井が提唱する「教育の人間主義」の思想に立脚したとき、能力が伸びるという現象の背景には、子どもの内面の働き(牧口:「価値」への志向性、村井:「よさ」への志向性)があるということに気づかされる。また、子どもの能力育成は、あくまで教育の一部分であることが理解される。教育を実践する者は、このことに自覚的でなければならない。
Databáze: OpenAIRE