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木を素材とし造形を行う際,製作者は樹種による強度や木理の性質,表面の視覚的な特徴の違いによって,木材を識別し選択をするという工程が必要である。この工程は,造形物の趣旨や性質をも左右するものであり,建築や木工芸などの分野に関わらず,重要視されてきた傾向が感じられる。本研究では,この木材の識別・選択の特徴が顕著にあらわれたものとして銘木の存在があると考える。日本において銘木は,主に和風建築の素材として,生活空間の中の非日常的な空間作りに使用されてきたことが見受けられる。木工芸の分においても建築分野と同様に,非日常的あるいは鑑賞的な意味合いの強い作品において使用頻度が高かったことがわかる。しかし,近年の生活スタイルや建築様式,人々の嗜好の変化に伴い,需要は減退の一途であるといわれている。銘木は定義が非常に曖昧であり,一般木材との境界が不明瞭であると考えられるが,需要の減退に伴い,存在自体が曖昧なものとなり,銘木の本質や意義も時代や流行によって変容していることが伺える。本論では,これらの銘木のもつ性質や問題点に着目する。銘木の曖昧さや本質,またそれらの時代による変容の推移を探り,現代における銘木の意義を見出す。第一章において研究の背景と目的を述べ,第二章で既往文献や筆者の木工家としての実体験等をふまえ,銘木の定義を探る。更に第三章において,具体的な銘木の特徴や使用について示し,第四章では,木材全般の消費の動向や人々の木材に対する思考について触れる。また第五章において,筆者が平成28年(2016年)におこなった,銘木商・製作者を対象に銘木に関するアンケートと聞き取り調査の内容と結果を示し,銘木のおかれた環境の実情を把握し,第六章において筆者の考える銘木の定義や,銘木の意義について考察する。 |