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生理的な乳歯の歯根吸収機構を知る目的で, 脱落期に至ったヒト乳歯の象牙質吸収面の表面構造と吸収面に付着する細胞を組織学的, 微細構造学的に検索した。象牙質の吸収は, 歯根膜側のみならず髄腔内からも起き, いずれの場合にも吸収面には慢性炎症を伴う血管結合組織が観察された。活発に歯根の吸収が行われている症例では, 象牙質吸収面には種々の大きさと深さの吸収窩が見られ, 深い吸収窩には多核の破歯細胞が観察された。また, この破歯細胞に混在して単核の紡錘形細胞や組織球が吸収面に多数分布しており, 単核の細胞は破歯細胞に隣接して存在するほか, 破歯細胞の波状縁にまたがるように分布していた。超薄切片像で, 吸収面に分布する細胞を観察すると, 破歯細胞や単核の紡錘形細胞がみられ, これらの細胞と象牙質吸収面との間には細分化したコラーゲン線維が散在し, 単核の細胞内にはコラーゲン線維の貪食像が観察された。この単核の細胞は, 微細構造学的には多くの粗面小胞体と糸粒体, そして, よく発達したゴルジ・ライソゾーム系を有することで特徴づけられ, 線維芽細胞ないし骨芽細胞によく類似するが, 分泌顆粒は観察されなかった。一方, 破歯細胞は, 吸収面に面して形質膜の深い陥入から成る波状縁を有し, 細胞質には, 多くの糸粒体とライソゾーム様小体, そしてよく発達したゴルジ装置を持つが, コラーゲン線維の食食像は観察されなかった。このような象牙質の吸収窩を走査電顕で観察すると, 径10~60μmの大小の吸収窩は, 構造的に2つに大別され, 破歯細胞の分布する吸収窩では管周基質の溶解による細管腔の拡大が顕著であるのに対し, 単核の細胞が分布する浅い吸収窩には管周基質の溶解は認められなかった。 |