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Streptoceccus mutans (以後S. mutansと略す) の裂溝深部への侵入, 定着の様態を調べるため, 臼歯の萌出直後から経時的にラットの口腔内及び摘出臼歯裂溝深部細菌叢の検索を行なったところ, 裂溝深部から非常に特異的な集落形態を示すS. mutansが分離されたのでその性状について検討を加えた。Wistar系ラットの臼歯を抜去し, 溶融ワックス中で表層を滅菌後, 粉砕し, ペプトン水中でソニケートしたのち, MS寒天培地及びTYC寒天培地上で37℃48時間嫌気培養を行なった。分離したS. mutans菌株はLedergergの原栄養要求培地 (MM培地), 及び完全栄養培地 (CM培地) を改良した培地に継代をし, 種々の性状検査を行なった。なお対照菌株としてS. mutansFA-1を用いた。細菌の増殖は630nmの波長で濁度を経時的に追求することにより観察を行ない, 細菌の乳酸産生を培地のpH変化やガスクロマトグラフィーで測定した。細菌のglucosyltransferase (GTase) 活性はWenhamらの方法で測定した。裂溝深部より分離されたS. mutansは, MSおよびTYC培地上で通常の記載にみられないような, やわらかく, pin-point状の極めて微細な集落を形成し染色像はたいへん長い連鎖状を示した。しかしながら, 分離菌株をCM培地で継代すると通常菌株の示す集落への移行性を示し, 逆にFA-1株をMM培地で継代すると分離菌株の示す集落への移行性を示した。裂溝分離株は結果的には, GTaseの活性, 糖分解能, 乳酸産生能, 血清学的性状はFA-1株との間に大きな違いはみられなかった. MM培地中での分離菌株の増殖はFA-1株をMM培地に継代した当初は, 分離菌株の方が早い増殖度を示したが, 継代を重ねるにつれてFA-1株の増殖速度が早くなり両者に差は認められなくなった。以上のことから, 今回得られた裂溝分離株は, 裂溝下の条件に適応した変異株ではないかと思われた。 |